LOGIN序列五十位、最下位――その数字は、三人の胸に別々の形で沈んだ。猛には悔しさと意地として、青野には冷静な現状把握として、白河には身体の末端を冷やす不安として。
講堂に満ちていたはずの期待は引き潮のように消え、残るのは冷ややかな視線の針と、教官の声だけだった。 「――特に、下位のチーム! 油断している暇など微塵もないと思え!」 担任となる鬼瓦の視線は、的確に弱い環を射抜く。彼は群衆のざわめきから三人の反応を拾い上げ、圧力という教材がいま最も効果的に作用する標的を本能で見分けていた。 「毎学期末に序列は見直される! 結果を出せんチームは容赦なく切り捨てる! 『ラストホープ』などという名前がついたが、本当に最後の望みとなるか、あるいは最初に消えることになるか……すべては貴様ら次第だ!」 死刑宣告めいた言葉は演出ではない。ここでは結果だけが盾であり剣だ。猛は唇を噛み、青野は小さく息を抜いて心拍を整え、白河の肩は目に見えぬほど微かに震えた。 「オリエンテーションはこれで終了だ! 各自、自分の寮の部屋を確認し、荷物を整理しろ! 明日から早速、授業を開始する! 遅れるなよ! 解散!」 号令と同時に、椅子の擦れる音と足音が洪水のように広がった。流れに乗れない者は、いつだって少数派で自覚的だ。猛もその一人として立ち尽くす。自尊心と現実の間で足が止まるからだ。 「――あの、赤星猛くん、ですよね?」 背後から届いた声は、相手の防御を下げる温度を持っていた。振り返った猛の前に、青野渉が人懐っこい笑みを浮かべて立っている。距離を測るのが速いタイプだ、と猛は無意識に判断する。 「ああ、そうだけど……お前は、青野――だっけか」 「ええ、青野渉です。それから、もう一人の――」 青野の視線は、出口付近で立ち止まる小柄な影を捉える。大きな眼鏡の奥で、白河ことねの瞳が不安に揺れていた。場違いという語を、彼女は自分の輪郭に貼り付けて感じ取っている。 「白河さん、でしたよね? 同じチームの青野です。よろしく」 柔らかな声かけにも、白河の身体は反射的にこわばる。彼女の反応速度は、危険回避に最適化されている。 「………は、はい……し、白河…です……よろしく、お願い、しますぅ……」 蚊の鳴くような声が、ようやく言葉の形を取る。会話は成立したが、交流にはまだ距離があった。 「――というわけで、我々三人が、栄えある『ラストホープ』のメンバー、ということになりますね」 青野は苦笑を混ぜ、空気をやわらげようとする。役割を直感的に引き受けるタイプでもある。 「寮の部屋割り、確認しましたか? 他の皆さんは、綺麗な本館寮に向かってますけど――」 「……俺たちは違うのか?」 「ええ。僕たち『ラストホープ』だけは、別棟――というか、かなり古い旧寮棟だそうです。なんでも『特別指導対象チーム用』とか」 わざとらしく肩をすくめる青野の軽さは、重い現実にクッションを噛ませる工夫でもあった。 「なんだそりゃ!? やっぱり最下位は扱いが違うってか!」 「まあまあ、ポジティブに考えましょう――別棟には他の生徒はいない。つまり、僕たちの自由な城と捉えることもできます」 「……城ねぇ……」 猛の皮肉は、諦めではなく手触りを確かめるための独り言だ。 「とにかく、行ってみましょう。百聞は一見に如かず、です」 促され、三人は歩き出す。白河は俯いたまま、靴音で他者との距離を測る。ついて行けている限りは大丈夫――彼女の安全基準は、今はそれだけだ。 * * * 本館寮から離れ、忘れられたように佇む木造の建物に、三人は辿り着いた。錆びたプレートには『西寮・旧別館』。 窓枠の塗装は剥げ、春の風が古木の匂いを押し出してくる。ここが、意図的に視界の端へ置かれた場所であることは、誰の目にも明らかだった。 ギシギシと軋む廊下を進み、一番奥の扉の前へ。『五十 ラストホープ』と、申し訳程度のプレートが貼られている。数字は飾っても光らない――三人とも、それを理解していた。 扉を開けると、カビと埃の混じる匂いが鼻を刺す。狭い部屋に三つのベッドと机、古びたクローゼット。黄ばんだ壁紙、心許ない床。 生活の立て直しは、まず換気から始まるだろう――青野はそう計算し、猛は『鍛錬の場』と無理に言い換え、白河は一歩を踏み入れる前から体温を落としていた。 「うへぇ……マジかよ、これ……」 言葉を失う猛。これが拠点だと認めるには、少しの勇気と多くの現実感が要る。 「まあ、予想通り……いや、予想以上かもしれませんね」 青野は苦笑し、自分のベッドに荷物を置く。 そのとき、入口で白河が小さな悲鳴を飲み損ねた。 「ひっ……!?」 三つのベッド――それはつまり、この狭い空間を男女三人で共用するという意味だった。彼女の脳は即座に赤信号を灯し、頬は真っ赤に、足は後ずさる。 「お、おい、白河、どうした?」 「………あ、あの……ここ……だ、男女…こ、混合、なん、ですか……?」 震える声で、途切れ途切れに尋ねる白河。その様子は、まるで猛獣の檻に入れられた小動物のようだ。 「ああ、そのようだね――本館寮の方は男女別室らしいですから……こちらも特別待遇というわけですかね」 青野は事実を告げ、口調に冗談を一滴だけ混ぜる。緊張はゼロか百では扱いにくい。 「大丈夫だっつうの、白河――俺たち別に何もしねぇよ、なぁ青野?」 「ええ、もちろんですとも。僕たちは紳士ですから」 「そ、そういう、問題じゃ……っ!」 白河は両手で顔を覆いかけ、ぎりぎりで堪えると、部屋の隅のベッドへ駆け、壁に向かって体育座りでうずくまった。 「あー……こりゃ、思った以上に重症だな……」 猛は頭を掻く。狭い部屋、男女混合、そして極度の対人恐怖――条件は揃っている。彼の胸の底から「やってらんねぇ」という声が上がるが、同時にそれを押し返す頑固な火もある。 「なあ、二人とも!」 猛は意識して明るさを足す。声のトーンは、自分にも効く。 「決まったもんは仕方ねえ! 部屋がボロだろうが、男女混合だろうが関係ねえ! 俺たち『ラストホープ』で、絶対トップになってやろうぜ! 見返してやろうじゃねえか、エリートどもを!」 宣言は誓いであり、同時に自分への命令だ。青野は軽く拍手する。彼は熱に水を差さず、温度を保つ術を知っている。 「威勢がいいですね、赤星くん。その意気や良し、です。まあ、トップはともかく、まずはこの部屋から脱出……いえ、最下位脱出を目指しましょうか。ね、白河さん?」 壁に向かう白河の肩がピクリと動き、ほんの少し顔が上がる。「……はい」と小さな返事。すぐ俯くが、耳は真っ赤になっていた。返事は、彼女にとって大きな前進だ。 前途多難――それは事実だが、困難が均一であることほど世界は退屈ではない。三人の欠点は、相互に補い合う凹凸の可能性でもあった。彼らはまだ、その噛み合い方を知らない。 壁には、真新しい序列ランキング表。『五十位 ラストホープ』。数字は現在地を無情に示すが、地図としては有用だ。ここが出発点――そう認められる者から、物語は動き出すのだから。食堂での聞き込みを終え、再び二階の書斎へと戻ってきたラストホープの三人。 血の匂いと紙とインクの匂いが入り混じる重苦しい空気は、先ほどと変わらず部屋に淀んでいたが、三人の胸中には、さっきまではなかった「次に何をすべきか」という明確な目的意識が共有されていた。「……結局、アリバイじゃ誰も絞れなかったな」 書斎の入口で立ち止まり、猛が悔しそうに呟く。取り調べで何か決定的な矛盾を暴けると期待していた分、肩透かしを食らったような苛立ちが残っていた。「ええ。皆さん、見事にアリバイがないか、あっても証明できないものばかりでした。もっとも、それは犯人の狙い通りなのかもしれませんが」 青野は、感情を抑えた声で冷静に答える。容疑者たちの言葉は、どれも慎重に選ばれており、決定打にはほど遠い――そう判断していた。「容疑者の『言葉』だけを追っていては、これ以上の進展は望めそうにありません」 その横で白河は、黙ってタブレット端末に視線を落としていた。先ほどの聞き込みで得た情報と、現場で記録したデータが、彼女の頭の中で何度も組み替えられ、照合されている。「となれば、次に我々が注目すべきは『物』――物理的な証拠、そして、この『黒百合邸』そのものの構造です」 青野は書斎全体をぐるりと見渡しながら言う。「この完全な密室を可能にしたトリックが、必ずどこかに隠されているはずです。そのためには――」 彼はそこで言葉を切ると、一度書斎を出て一階へと降り、再び皆が集まっている食堂へと戻った。そして、滞在者と黒田を前に、丁寧に頭を下げる。「皆さん――何度も申し訳ありません。捜査のため、この館、特にこの書斎周辺の詳細な設計図をご提供いただきたいのですが――どなたかご存知ありませんか?」 その問いに、即座に反応を示したのは鷹宮だった。「設計図、ですか。承知しました。財前様の書庫に保管されているものがありますので、すぐにお持ちします」 淀みのない返答。協力を惜しまない態度は、秘書として模範的ともいえた。
猛、青野、白河の三人は、血の匂いの残る書斎を後にし、重たい空気をそのまま引きずるように一階の食堂へと向かった。 そこには、すでに管理人・黒田の指示で残りの滞在者――鷹宮、綾小路、久我――が集められていた。三人とも椅子に腰掛けてはいるものの、誰一人として落ち着いている者はいない。硬くこわばった表情の下には、それぞれ不安や動揺、そしてそれだけではない、何かもっと複雑な感情を必死に押し隠している気配があった。「黒田さん、ありがとうございます――皆さんには状況は?」 食堂に入ると、青野がまず黒田に確認する。彼の声は落ち着いていたが、内心では「ここから先の一言一言が、この場の空気を決定づける」と慎重に言葉を選んでいた。「ああ――財前様が書斎でお亡くなりになったことは既に伝えてある」 黒田は短く答える。その瞬間、テーブルの空気がさらに重く沈んだ。「そんな……ひどいわ……」 綾小路は、あらかじめ用意されていたかのようにハンカチで口元を押さえ、大げさとも取れる仕草で目元を押さえる。だが、彼女の涙には本物の動揺と、同時に「周囲にどう見られるか」を計算する冷静さが混在していた。 久我は、沈痛な表情で静かに目を伏せる。彼の胸中には、かつて会社を奪われた相手が「死んだ」という事実が、複雑な感情を呼び起こしていた。憎悪、安堵、罪悪感――それらが渦を巻き、簡単に言葉に出来る状態ではない。 鷹宮は、表情こそほとんど変えないものの、眉間にごくわずかなしわを寄せていた。長年仕えてきた主の突然の死に、忠誠心から来る衝撃と、心のどこかで抑え込んできた鬱屈が揺さぶられている。「ありがとうございます」 青野は黒田に礼を述べ、今度は食堂全体に向けて口を開いた。「念のため、基本的な確認をさせてください。昨夜から今朝にかけて、外部から誰かが侵入した形跡、あるいは館のセキュリティに異常はありませんでしたか?」「それは断じてあり得ん」 黒田は即答した。答えをあらかじめ用意していたかのように、一切の迷いがない。「昨夜
『――制限時間内に真相を突き止めろ! 以上だ!』 鬼瓦教官の通信は、それだけを告げると一方的に途切れた。書斎に踏み込んだ猛、青野、白河の三人は、しばし言葉を失って立ち尽くす。 目の前には、重厚なデスクの前で崩れ落ちるように倒れた財前剛三の亡骸。床一面に飛び散った血痕はまだ完全には乾ききっておらず、鉄錆にも似た生臭い匂いが、古い書物の匂いと混ざり合って部屋を満たしていた。 その傍らには、黒百合を模したブロンズ製オブジェが転がり、その先端には生々しい血がこびりついている。 演習とはいえ、目の前の光景はあまりにも生々しい。猛はごくりと喉を鳴らした。これまで学園で経験してきたどの模擬事件よりも、死が近く、重く感じられる。 頭では演習だと理解していながら、身体は本能的に本物の現場だと判断しているのだ。 最初に我に返って動いたのは青野だった。驚愕と緊張を、いつもの飄々とした仮面の裏に素早く押し込み、瞬時にやるべきことを組み立てる。「っ――まずは現場検証ですね」 彼は二人へ向き直ると、手早く指示を飛ばした。「赤星くんは、破られたドアと窓の状況を再確認してください。力ずくで開けられないか、外側から細工された痕跡がないか、徹底的に」「あ、ああ!」 「白河さんは現場全体の記録と、鍵や閂周辺、窓枠などの微細な痕跡の調査を。僕は全体の指揮と記録に回ります。それから黒田さん、この館にいる他の方々を一箇所に集めておいていただけますか?」「わかった――食堂に集めておこう」 黒田が短く答える。 青野は礼を述べると、すぐさま自身も動き出した。かつての演習で培った役割分担の感覚が、三人の中に根付きつつある。猛も白河も、動揺を抱えながらも頷き、それぞれの持ち場へと散っていった。 * * * 猛はまず、破壊されたドアを確認した。先ほど黒田と二人がかりで体当たりした衝撃で、閂の受け金具部分が砕け、木片が内側に飛び散っている。「閂は……
黒百合邸で迎える最初の夜。館のダイニングルームには重厚なマホガニーのテーブルが据えられ、天井から吊るされた豪奢だがどこか古めかしいシャンデリアが、鈍く黄味を帯びた光をかすかに瞬かせていた。 テーブルを囲むのは、管理人の黒田、四人の滞在者、そして『ラストホープ』の三人。磨き上げられた銀器の音だけが、張り詰めた空気を細く切り裂いていく。 料理は文句の付けようのない一級品だった。前菜からメインに至るまで、盛り付けも味も洗練されている。だが、それを心から享受している者はほとんどいなかった。特に滞在者たちの間には、取り繕った会話の裏で、別種の刃が何度も交わされている。「そういえば、今回は来てくれて光栄だよ、南川建設の元社長さん――いや、もう肩書きは返上したんだったかな」 財前が、わざとらしい笑みを浮かべて久我に視線を向けた。口調は冗談めいているが、その下にある優越感は隠そうともしていない。「……そう、ですね。私の会社を掠め取られるという出来事はありましたが、今は友人と……思っていますので」 久我は、表向きは柔和な笑顔のまま答えた。その声音は穏やかだが、青野には、その瞳の奥に、一瞬だけ冷たい光が走ったのがはっきり見えた。 南川建設が財前の企業に吸収された――事実の経緯には色々あるのだろう。少なくとも、表に出さないだけで、久我の内側に燃える感情は、友愛とはほど遠いものだと、青野は確信する。「フン、そう言うでない。現に私の会社の一部門となって以来、業績は鰻上りだ。君の経営でいるより、あの会社も幸せだっただろう」 財前は久我の言葉を鼻で笑い飛ばし、見下ろすような視線を投げた。久我は表情を崩さない。 「ええ、全くもって財前さんのおっしゃる通りです」とだけ返し、静かにスープをすくう。その礼節ある態度が、むしろ抑え込まれた感情の深さを示しているようにも見えた。 財前は、次に傍らに控える秘書兼ボディガードの鷹宮へと向き直る。「鷹宮くん、明日の朝一番で、例の企業との契約を東京本社へ結びに行く。至急、プライベートジェットの手配を頼む」
不知火探偵学園を出て専用車に揺られること約一時間。鬱蒼とした森を縫う山道へ入ると、窓の外は深い霧に沈み、世界は輪郭を失った。車内の三人――猛、青野、白河――は、それぞれに同じ感覚を覚える。 ――濃霧は単なる天候ではなく、外界との連絡を断ち切る幕のようだと。 猛は未知の現場が近づく高揚とわずかな緊張に喉が乾き、青野は隔絶は演出として非常に効果的だと冷静に評価し、白河は視界を奪う白さに、情報が削がれていく心細さを胸の奥に抱く。 やがて車は古びた鉄門の前で止まった。蔦に覆われたプレートには、辛うじて『黒百合邸』の文字。運転手がリモコンを押すと、きしむ音とともに門が開き、車は敷地内へと滑り込む。 霧がほどけ、館が姿を現す。重厚な石造りの洋館に、純和風の家屋が寄り添い、異なる時代と文化が無理やり結婚させられたような接合部を晒していた。 意匠の細やかな出窓やバルコニーのすぐ隣に、風雪に耐えた瓦屋根が重なる。庭園も同じく混交している。西洋式の幾何学的花壇の途切れに、苔むした灯籠が唐突に立つ。黒々とした土の片隅には、名の由来を誇示するかのように、妖しく濃い紫の黒百合が霧雨に濡れて俯き、甘い匂いを微かに放っていた。 総じて美しい――ただし、どこか手入れが斑で、意図して不気味さを残しているようでもある。赤星は思わず息をのむ。写真の印象など浅かったのだと、目の前の異形の調和が教えた。 玄関ポーチに車が停まる。重い扉が静かに開き、初老の男性が姿を見せた。背筋は真っ直ぐ、顔には深い皺、眼光は鋭い。年の頃は六十前後、仕立ての良いスーツの落ち着きが、むしろ隙のなさを際立たせる。「ラストホープの諸君だな。学園より話は聞いている――この館の調査ということだったな。この館の管理人、黒田巌だ。ようこそ、黒百合邸へ」 低く通る声。必要最小限の情報だけを与え、それ以上を渡す気はないと、挨拶そのものが示している。三人は、今回の訪問の表向きの理由が『館の調査』であることを改めて胸に置いた。 * * * ホールに入ると、既に四人の男女が待っていた。黒田は
七月――期末考査の足音が近づくとともに、不知火探偵学園には、浮き足立つざわめきと、糸のように張り詰めた緊張が同居し始めた。 梅雨は明け、空はようやく薄藍を取り戻しつつあるのに、生徒たちの心の湿度だけは下がらない。廊下や談話室では、声を潜めた噂が行き交う「今年はどんな形式だ」「実技で転ぶと致命的だ」「序列は動くか」 その一つひとつが、試験の名を借りた再編の季節を告げていた。『ラストホープ』の三人も、例外ではない。序列は依然として最下位。彼らにとって期末考査は、名実ともに生き残りを賭けた戦場となる。圧は日ごとに重くなり、肩にのしかかって、呼吸の深さを奪っていく。 そして運命の朝、ホームルーム。教壇に立つ担任――鬼瓦の表情は、いつも以上に岩のように険しかった。「――静かにしろ! これから、一学期期末考査の詳細を発表する!」 一喝で空気が締まる。視線が一斉に教壇へ吸い寄せられた。「今年度の期末考査は、各チームに個別の特別演習を科し、その成果を総合評価する!」「個別演習!?」「チームごとに違う課題ってことか?」 教室がざわめく。これまでの実技試験では学年全体で同じ事件の解決に臨むというものであったため、全く異なる形式に、戸惑いの声が上がった。 鬼瓦はざわめきを意に介さず、名簿を読み上げていく。チームごとに課題が記載されたデータファイルが配布され、液晶画面に次々と新しい見出しが開く。「チーム・プロミネンスは、第三演習場での連続殺人事件対処訓練」「チーム・グリフォンは、過去の未解決事件の再捜査レポート提出」 課題は多岐にわたり、似たものは一つとしてない。最後に、その名が呼ばれた。「――ラストホープ!」 三人の背筋がわずかに強張る。「貴様らには、学外施設『黒百合邸』にて、一泊二日の実地調査演習を行ってもらう!」 教室に小さな波紋が広がる。 猛は思わず目を丸くした。学外、それも泊まり込み――他